2.沈黙期間が不安を生む

まず、合併は沈黙期間から始まり、そしてこの沈黙期間が最初の不安を運んで来ます。

 どの合併でも発表直後、社員に向け、合併の事実と合併に至った経緯について説明会があったのですが、残念なことにその説明の後、合併に関する情報がぷっつりと途絶えてしまいました。 「本当に合併はあるのかな?」と疑いたくなるほど程、合併に関する情報が全く会社から出てこないのです。
沈黙期間とでも呼びましょうか? この沈黙期間が社内に不安を招き入れます。

 合併の発表直後、説明会で発表された内容は、私が経験した3回の合併ともほぼ同様で「今回の合併により生まれる相乗効果は、会社の競争力をより高める。会社は今回の合併により社員に不利が生じないよう、最大限の配慮をすることを約束する。」というようなものであったと記憶しています。 そして「適切な時期に適切な情報を伝えるので、それまでは今まで通り仕事に集中してほしい」という指示もありました。
合併に関する質疑応答の場も設けられましたが、質問に対する会社の回答はいつも一貫して「現時点ではわからない」、「今は答えられない」というもので、それ以上の回答を引き出すことはできません。 そしてこの合併直後の説明会の後、暫くの間会社から合併に関する情報が発信されなくなりました。

正確に言うとこの沈黙期間に社内の動揺を抑える目的で情報を発する会社もありましたが、説明は言い回しを変えただけの繰り返しで、内容は決して目新しいものではありませんでした。 社員は相乗効果による合併のメリットは理解できるにしても、社員の関心ごとは会社より自分自身についてでしょう。

「最大限の配慮って具体的にはどういうことだ?」
「最大限の配慮という言葉を使うということは、人員削減があるということを意味しているのか?」
「競争力が増すというが、私の仕事はどうなるのか?」
「合併後、私はどの職場で働くのだ?」
「今回の合併について報道されたことは本当なのであろうか?」

このように大抵の社員は合併を理解しようとする時、自分自身を中心に置いて周りを眺めます。
そして関心事の中心は「自分」であり、疑問もそこから生れてきます。
しかし、合併直後の説明内容だけでは、社員自身の疑問を晴らすにはあまりにも情報が少なく心細い限りです。 自分が知りたいことに答えが得られないのであれば、不安を覚えるのは当然でしょう。
そして時間の経過と伴に社員一人一人の不安は社員の間を縫うように拡がってゆきますが、社員は様々な疑問を解決できないまま、しならくの間放置されてしまうのです。

なぜ、そのような情報の沈黙期間は生まれるのでしょうか?
今、私は自身の経験を振り返り思い当たることは、合併には「手続きがあること」と「統合計画の作成にはそれ相当の時間が必要だから」だと考えています。
まず合併の手続きですが、合併発表後、株主の承認など重要な手続きを控えており、それらの手続きに目鼻立ちがつかないうちは、会社はいくら社員であっても合併に関する情報をおいそれと開示できません。
そうなると、情報開示ができるまでの間、必然的に空白が生じてしまいます。

 それから統合計画を策定するまでの空白です。
合併の手続きが進んでいくと今度は会社をひとつにする具体的な統合計画を策定しなければなりません。
これは私自身が人事責任者として合併の統合作業を経験してわかったことですが、合併の事前協議の場では、統合について「組織全体」という大枠で話はするものの、「個々の部門、部署をどうなるのか?」というような、細部について話し合いを行うことはほぼありません。

 合併の手続きの段取りが終了すると、そこではじめて部長や課長など統合作業の中枢を担うであろう実務レベルの責任者に合併の統合作業が下りてきます。
各社、各部門における実務レベルの責任者は合併をする意義を考慮に入れながら、統合計画を策定して、それらを実行に移さなければなりません。

統合計画を策定するためには、互いの事業の現状や、組織を理解するところから始めます。 合併が正式に決定して、いざ、互いの蓋を開けみて、初めて分かることも多々あり、たとえ同じ業界で同じ言葉を使っていても、その使い方や解釈の違いなどで、意外に厄介なことにてこずり、ここにはそれ相当の時間がかかってしまいます。
これらの理由により統合計画を社員に発表できる段階まで纏め上げ、それを皆さんに公表できるようになるまでは、どうしてもそれ相当の時間が必要となってしまいます。

「手続き」と「統合計画の策定」。
これらの理由でどうしても情報の沈黙期間が生まれてしまうのです。
そして沈黙期間を手始めに社内に不安に不安が広がってゆきます。 この沈黙機関は不安を抱えた社員の皆さんにとり、不気味であり、焦燥感にかられるものに違いは無いでしょうが、精神衛生上、水面下では物事が進んでいると会社を信頼すべき方が賢明だと思います。

(Kawashima)