1980年代末、”バブル”と呼ばれた空前の好景気により、労働市場には人を採用したくても、なかなか採用できない“超売り手市場”が出現しました。
その後、“バブル”が破裂して、一転、長い不況となったのは皆様もご存じのことでしょう。
リーマンショックが世界を揺るがせたこともこの不況に輪をかけました。
この間、企業の採用意欲は衰え、学生の就職戦線は”超氷河期“とも呼ばれた時代です。
また、“リストラ“という言葉に代表されるように、企業が生き残りをかけて、人員削減を行い、多くの人が会社を去らねばならない事態となりました。
これはバブルの時代の”超売り手市場“に対し、”超買い手市場“といえるでしょう。
それでは、本当に“超売り手市場”なので人材の獲得は難しく、“超買い手市場”だから人材の確保が容易だったといえるでしょうか?
私の実感としてはそのような感覚はありません。むしろ印象は逆です。「労働市場には人が余っているので容易く採用できるのでは?」と考えていましたが、すっかり当てが外れました。
確かにアルバイト等の非正規社員では人が集めやすくなったことは確かですし、そのような状況は労働集約型産業の人材採用に優位に働いたのは事実でしょう。 価格を抑えることを武器に業績を伸ばしたデフレ型ビジネスが成立したのも人にかかわるコストやリスクが抑えられていたからだと思います。 しかし、会社の中心となる、つまり将来に向けての投資と位置付けすることが出来る職務に対する人員採用となると事情はかなり異なります。
まず、(特にリーマンショック問題以降)経済の後退により確実なコスト増となる人員の増加は、景気の先行きが不透明な中、業績が良い会社とて簡単には決断できなかったと思います。 いざ、人員不足が明確となっても、本当に採用すべきなのか社内で検討に検討を重ね、本当に必要であれば採用するというスタンスの企業が多かったと想像します。 実際、私が勤務をしていた会社でも、業績自体は悪くありませんでしたが、市場の先行きが不透明であることを理由に人員計画を見直し、増員計画は凍結、退職者の補充も原則、一時中断にしたほどです。
そのような状況で人を採用するわけですから、採用をするのであれば採用要件を充分に満たし、成果が確実に期待できる社員を採用することが絶対的前提となります。
バブル期において採用に求められていたことは空いている椅子をどれだけ埋めるかということ。多少、採用要件に及ばなくとも座ってもらえる人であれば構わないという算段で採用活動が出来ました。
しかし、バブル期以降は前述のようなスタンスで人材の採用を決定した経緯もあり、その椅子に相応しい人がいなければ、無理をして埋めなくて構わないし、むしろ、適任者がいないのであれば開けておくべきだという雰囲気に変わりました。そうなると候補者に対する採用要件を満たすことへの厳格性が高くなり、採用要件を完全に満たす候補者を見つけてこなければなりません。つまりバブル期では採用していたであろう候補者でも、採用要件の厳格化により採用できなくなる。
市場には職を探している方はたくさんいらっしゃるのですが、採用要件を満たすことに対するハードルが上がってしまったため、なかなか要件を満たす候補者に出会うことが難しくなりました。
それから、不況下では候補者となりうる人物の会社を変わろうとする積極性が薄くなり、転職に関する考え方が保守的になったと感じました。
経済の先行きが不透明な状況の中、将来が読みずらい新しい会社より、待遇や処遇など居心地の悪さに多少の不満があっても今の会社の方が将来のリスクが読めるという理屈で、転職を躊躇されていたように感じます。
また、会社側も人員を削減して社員の数を減らしているため、残っている社員に対する会社の期待も大きく、それなりに大切にされていたのでしょう、なかなか“外に出よう”という気も沸きずらかったのかもしれません。
現に現勤務先でも評判が高いと思われる優秀な候補の方に内定を出し入社をお願いすると、結果として転職活動をやめて現在の勤務先に残るという選択をされた方もいらっしゃいました。
候補者の退職の意向を聞きつけ、現在の勤務先が候補者の意を汲み、条件や環境を整えてくれたのだと思います。
この辺りも採用を難しくしているところでしたね。
その上、やっと労働市場に要件を満たす候補者が現れても、他の企業もそのような候補者には興味が沸くわけで、そのような候補者には企業側からアプローチが集中します。ある意味、そのように企業の採用要件を満たすことが出来る候補者から見ると、労働市場は引く手あまたの状態だったと思います。
各社とも採用要件に妥協がなく、採用基準に合わなければ採用しないという背景により特定の職種においては人材獲得競争は激化、労働市場では”超買い手市場”と言われつつ、実感としては”超売り手市場”以上に採用がうまく進まないというのが、各企業の採用担当者の実感だったのではないでしょうか?
このように景気動向や時代背景にかかわらず、優秀な社員を確保するというのは大変に難儀なこと。合併や買収そして経営統合というのはある意味、量的にも質的にも優秀な社員を組織内に取り込めるまたとない機会です。
そのために合併や買収、経営統合を検討や判断する視点の中に、労働市場や人材獲得という視点を加え、合併による人材を適正に判断することをお勧めします。
そして現在の「人材」が「人財」であると判断するのであれば「人」に対する環境や心境に充分に配慮することを通して、人財である社員に組織内に残りたいという意思を持たせることは大変重要なことと考えています。
(Kawashima)