合併や買収、経営統合を成功させるために最も大切なことは、”業績を出し続ける”ことです。
業績を出し続けることは企業活動における本質の大きな部分を占めており、合併だからと言って特段に何か変わるものではなく”当たり前“のこととお考えの方も多いと思います。
しかし、不安が垂れ込め、混乱が渦を巻いている環境下では、通常では思いもよらない事態が起こり、その影響で計画通りに物事が進まず、その結果平時と同じような業績を出すことは一筋縄とはいきません。
また日々の業務を司っているのは、日々最前線で働く社員の活躍の積み重ねといっても過言ではありません。
そして組織を統合する過程において健全な業績を出し続けるためには、そのような業績の源泉である社員の「こころの中の不安」に向き合い、彼らのモチベーションを保つことが、いつにも増して大変重要なこととなります。
合併で業績を出し続けることの大切さについて、私が経験を通し、実感をした理由をふたつほど紹介させて下さい。
ひとつめは顧客です。
あなたの会社の”合併や買収、経営統合”はあなたの会社の市場における競合他社にとり、市場においてあなたの会社に対して優位な立場を立つことが出来るかもしれないまたとない絶好の機会です。
競合他社はあなたの会社の組織が大きく変化することを察知すると、虎視眈々、食い入る隙があればあなたの会社の縄張りを侵食しようと目論んでくるでしょう。
そして合併や買収、経営統合について顧客の立場で冷静に考えると、それらはあくまであなたの会社の社内事情で、顧客には全く関係のないことです。
顧客の関心事は、あなたの会社がどのような状況になろうとも、今までと同様の取引が可能であるかというただその一点だけです。
そして、もし顧客が今までと同様の取引に支障が出ると判断すれば、新たに取引が可能な業者を探すまでです。
もし得意先に合併や買収、経営統合により不都合が生じていることを説明しても、得意先の答えは「それなならば仕方ないですね。了解をしました。」とはならないのでしょう。
この説明は得意先にとっては言い訳に過ぎず、きっと「そうならば仕方ないですね。他をあたります。」という反応になるのではないのでしょうか?
前者の「そうならば仕方ないですね」はあなたの会社の状況に同情的な表現であり、後者の「そうならば仕方ないですね。」はあなたの会社に対するあきらめを意味しているのであり、同じ“ならば”という文言でも、大きな違いがあります。
もしもあなたの会社と顧客の取引に不都合が生ずれば、その不都合は競合他社にとり、あなたの会社の取引を奪うまさに千載一遇の願ってもない機会到来をもたらすものとなります。
このような機会を競合他社が黙って見逃すはずもなく、舌なめずりをしてあの手この手、ありとあらゆる手段を使って顧客を奪おうと必死になるに違いありません。
そのような競合他社の行動はあなたの会社の取引を減少させたり、顧客そのものを失う事態に発展したりしかねません。
私が実際にある営業担当者から聞いた出来事をご紹介します。
2回目の合併における出来事ですが、私の会社の合併が世の中に発表されてからしばらく時間が経った頃、その営業担当者が懇意にしているとある顧客の仕入れ担当者が「『あそこは今、合併で社内がゴタゴタしていますよ。』とB社(競合他社)の営業が吹聴して回っているよ」と教えてくれたというのです。要は「あの会社は混乱しているので、このままあの会社と取引を続けても、近い将来、御社に不都合が生じますよ。この機会にそういう心配がない我社ともっと取引しませんか?」と暗に言っていたのでしょう。
競合他社の営業担当者が私達の会社の何を知っていたのかわかりませんが、私達は合併が発表された後も、合併が及ぼす影響が顧客に迷惑をかける結果とならないように、営業部門のみならず全社員が一致団結して事に当たっており、取引は減少するどころかむしろ増加傾向を示していたので、そのやり口に私たちを怒り心頭でした。
合併や買収、経営統合は相手の取引を奪うための大変良い口実なのでしょう。もし私たちが顧客との取引に何らかの不都合を生じさせれば、それはもう事実となりますので尚更の結果でしょう。
次は社内について。
混乱や不安が渦巻く中、”業績を出し続けること”は部門やチームまたは個人に様々な恩恵をもたらします。成果を出すことは組織の中でその部門やそのチームまたはそこの所属する個人の存在感を高め「一目置かれる存在」となりえます。
”この部門を外してしまうと”、このチームを外してしまうと”、この社員を外してしまうと”業務に大きなマイナスをもたらすという認識が社内に生まれ、組織の再編や人員削減が検討された場合、部門やチームそして社員を有利な立場に導く可能性があると考えています。
それとは逆に”業績を出し続ける”ことが出来ず、存在感を示すことが出来ないのであれば、その部門やチームそして個人は不利な立場に追い込まれる事態が生じかねません。
そしてもし万が一、自身部門やチームが再編により消滅してしまったり、残念ながら自身が人員削減の対象となったりしても、合併という不安定な状況において、業績を出し続けるために知恵を絞り、果敢に困難に立ち向かった経験は、自分自身を一回りの大きく成長させ、将来の糧になると確信しています。
このように業績を出し続けることは合併において組織や自身の将来を守るため、最も大切なことなのです。
(Kawashima)